中国ドラマ「棋魂」(原作:ヒカルの碁)から考える日本IPの完全ローカライズの可能性

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こんにちは!

北京でアニメプロデューサーをお仕事にしているmeenaです!

数ヶ月ブログをお休みしていましたが、やっぱり思考の整理にブログは有効的だったので、今後もちょこちょこ書いていこうと思います。なお、完全に個人ブログとなりますので、会社の考えとは全く関係ございません〜

今日お話するのは、2020年の10月から中国動画プラットフォーム「爱奇艺」で配信が開始された日本の人気マンガ「ヒカルの碁」を原作にした中国実写ドラマ「棋魂」について。配信されるかなり前から仕事柄、とても注目はしていました。が、ぶっちゃけ原作漫画と当時のアニメが名作すぎて個人的に好きすぎるあまり、中国版の実写化についてはKVや場面写が解禁されたあたりから全然見る気が起きませんでした…(汗)名作を変えてくれるなよ!?的な完全に原作ファン目線だったので…仕事の一環としてのケーススタディとしても見たくない…!といった変な意地がありました。

当時の世論的にも、正直注目していたのはやはり原作の名作ぶりを知っている人が多かったからでしょう、そこまでポジティブな捉えられ方はされなかった感覚です。

というのも、実際これまで日本IPの中国ローカライズ作品での成功例がかなり少ないのです。中国っぽくも無く、日本っぽくの無く…ターゲットが明確では無い為、「どっちの国でも成功しようとすると、とっちの国でも成功しない」といった泥沼にハマり、最終的にはどっちからも煙たがれる、といった状況になる事がこれまでは一番多かったのです。

今回の中国実写ドラマ「棋魂」は配信開始から話題と口コミは徐々に上ったいき、後半のsaiが消える話数では微博トレンドランキングにも入ってきてかなり話題となり、中国のアニメ会社や声優会社などの同業者と話していても「ローカライズのお手本だよ」という話にまでなってきたので、これはもう見ない訳にはいかなくなってきたぞ…という境地に立たされたので、渋々見ましたとも。爱奇艺で。

結果:ドはまり。好きな名シーン等は多分10回は繰り返し見直しましたね…

勿論、やっぱり原作が既に名作だからね〜という根本的な前提がありつつ、なぜ今回の実写化ドラマ「棋魂」が中国でも話題となり、多くの原作を知らない人達からも好かれる事となったのか、この現象の裏に、今後の日本作品との付き合い方が隠されているなと思い、私なりに考えてみました。

評価サイト豆瓣の状況(2021.2.20)

理由その1:共感力

完全に中国の視聴者に対して共感してもらいたいが為の設定の変更と、原作には無い脇役キャラの感情が追加されている。

①名前・歴史設定の変更:キャラの名前が中国人名前に変更されている。佐为が中国の歴史上の棋士となり、平安時代の棋士では無い、等。

背景設定:ヒカルと佐为が出会ったのが1997年の中国となっており、住んでいる環境や子供のころに食べていたアイス、当時の携帯事情などが20年前の中国の面影を残し懐かしさがある。これらの要素を前数話で強調する事により、幼少期から役者が変わる6年後まで、ズムーズに「これは中国で発生した事」という設定が受け付けやすくなる。

人物:主人公や脇役キャラのキャラ設定・思考回路・セリフに中国っぽさがある。例えばヒカルの母親像がより中国で典型的な母親キャラクターとなっている。棋院の先生が原作の優しい系では無く、スパルタ系で口は悪いが生徒思いで生徒から怖がられる系な先生像になっている(中国先生あるある)。

ローカライズの難しさは、名前などを中国名に変えても、視聴者にとっては「本当に中国で発生した事だ」と信じられない事かなと思います。

役者がどんなに演技で頑張っても、「中国の生活感」が全体的自然に感じられないと物語が浮ついてしまう為、原作の「粋」が何なのかをちゃんと分析し、時には大胆に「日本の環境では共感されやすいけど日本アニメを見ない中国の一般層にとっては理解しずらいシーン&内容」をバッサリ割愛・修正する必要が有り、その処理が今回のドラマではとてもうまかったなぁと思えます。

理由その2:原作名シーン&音楽

①原作名シーン: 正直前数話までは、子供の頃(ヒカルが佐为と出会う、アキラとの対局)を描いている部分は、大量に中国背景の設定に引きずられて、たまに見ていてこの作品が「ヒカルの碁」を原作にしている事を忘れる事もしばしば。そこに原作名シーンが「中国背景」で再現された時、やはり一種の感動を覚えました。

もし作品が頭から原作に忠実な形の再現されていたら、私を含め多くの原作ファンは「原作寄り」な思考で作品を見て「いっちゃもんがつけれるツッコミ所はどこにあるか」を探そうとするでしょう。ただ、冒頭からあちこちで当時の私達「ヒカルの碁」のファンが多い30代〜20代後半の層が子供の頃見ていたテレビドラマや学校ではやったおもちゃ等が続々と出てくる為、やはりどこかしら懐かしさが有り、そんな背景の中で心中の名作シーンが出てくるので、逆に一種の「ありがたみ」を感じました…

当時私も小学校の時見ていたドラマ

②主題歌:アニメED「get over」中国語版

音楽の力ってやっぱり凄いなぁと思えたのが、EDで当時アニメのED「get over」のイントロが流れたあたりで、グンと子供の頃アニメを見ていた時の感情が蘇るところ。視聴者のコメントを見ていると、「BGMも以前のアニメのBGMを使った方が良いんじゃない?」的な感想も多いが、正直ローカライズ作品として以前のアニメの曲は使いすぎると折角「中国背景」で描いてるのにアニメの面影が残りすぎると逆に良くないと思うので、今回EDだけというのは絶妙だと思えましたね!

「ここぞ!」という所だけ1曲2曲入れる。今後の参考になります!

理由その3:市場の需要を考慮する

①視聴者が感情移入できる斬新なジャンル

正直、これまでの中国ドラマでよくあるのが、「感情移入しにくい現実味の無いストーリーや設定」がです。例えば、20代のOLの賃貸マンションがやたら豪華でモデルルームのようであったり、職場での出来事がラノベの異世界系主人公並に出来すぎていたり…単純に漫画やアニメの世界の設定を実写化すると、中二病的で現実離れしており、一般のマス市場には受けません…が、結構量としてはそういうドラマが多い印象です(だから私もめったにドラマは見ません…)

ただ、昨今はそんな状況も「社会の現実問題」として一種のセグメントにフォーカスした作品が多くなるにつれて(例えば独身キャリアウーマンにフォーカスした作品)、私から見た感覚では、本作は「勉強が学生の本業」と言われていた時代に「プロ棋士を目指す少年達の成長物語」は多くの人にとっては見ていてとても斬新な、それでいてリアリティのあるジャンルなのかなと思いました。

余談ですが私の年下の親戚にも後に中国でプロ棋士となった子がいますが、学生時代は学校には殆ど行かず、プロ棋士になれなかったら小卒であり、頭が良くても今後良い仕事につける確立は物凄く低いというプレッシャーの中この道を選んでいました。「社会の中で本当にこういう人達がいて、それを感情移入できるように描きやすいジャンル」というのは、実写化ジャンル選びの時に参考になると思ってます。

②(BL)カップリング要素:

弾幕を見ている限り、原作ファンの他にコメントが多いのがカップリングのファンだったと思います。

ヒカルとアキラのライバル関係は妄想しやすいですし、制作側も「確実に故意に入れてるだろ!」と思われるカットやセリフも多いので、昨今中国のBLブームに乗って腐女子の支持率は高いと思います。

最終回はかなり原作と違うストーリーにはなっており賛否両論では有りましたが、腐女子へのサービス回かな…?と勝手に解釈してます(笑)

その他まだまだまとめ甲斐の有る内容は有りますが、「ヒカルの碁」を原作にした今回の中国ドラマ「棋魂」は度々失敗してきた海外IPの中国ローカライズという点ではとても良い事例で有り、今後の日中での作品提携やローカライズを考えた際、自信を与えてくれた作品だと勝手に思ってます!

最後に、今回の文章を書いたキッカケとしては、今後日本IPから中国ローカライズ作品を作るにあたり、より現場の考えなども知ってもらう事は重要だなぁと思ったからです。

少しでも、中国の事を知って貰えるキッカケになれればと思ってます!

ではまた〜

コメント

  1. くぜ より:

    こんにちは、私も日本のアニメ業界で仕事をしています、明解な記事毎回面白いです、ありがとうございます。

  2. くぜ より:

    すみません、記事本体への感想が途切れてしまいました…。
    記事の内容面白いなと思っていて読んでいたのですが、最近日本のドラマ業界で「24」や「SUIT」などの海外ドラマのローカライズが増えてきているなと思っていて、アメリカでも日本ビデオゲームがハリウッド映画化することが多く、これは各国全体的な流れかなと思ったのですが、中国国内でも増えている印象があるかが気になりました。
    また更新あれば楽しみにしております。

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