2020年8月22日から8月29日、北京では第十届北京国際映画祭(10th BEIJING INTERNATIONAL FILM FESTIVAL)が開催されています。
北京の各関連映画館では名作が上映されていますが、それと同時に様々なサミット・フォーラムなども開催され多くの映画人や国内外の有名な映画監督・プロデューサー、大手映画投資会社の重鎮などの話も聞けたりするので、今日はその中から私も気になっていた内容、中国と海外の合作映画について語っている「中外映画合作フォーラム及び映画投資会」(「Sino-Foreign Film Co-Production Forum & Film Pitch」)から、会議の内容を抜擢してご紹介するのと共に、恐らく直訳だけだと「それで?」となりそうなので、一応中国人アニメプロデューサーとしての自分なりの見解や私のいるアニメ業界ではどうだろう、という事もお話ししていきたいと思います。
8月24日開始されたこのフォーラムの主旨は:
① 中国と海外映画の合作経験のまとめ
② 現地化及び国際化の融合モデルについての討論(海外監督リモート参加、日本からは岩井俊二監督)
③ 中国映画の工業化の過程での国際提携・協同に関する考え
中国は現在、英国やフランス、ロシア、ニュージーランド、日本、インド等22カ国と政府間の映画合作協定を締結しています。2000年から2019年末までに、244本の中国と外国の合作映画が公開され、中国大陸での興行収入が1億元(日本円で約15億円)を超えた作品は49本に上ります。
中国電影合作制片公司、劉春総経理
日本との合作協定はまだ記憶に新しい人も多いかもしれません。2018年5月に日中共同製作協定が調印された、輸入枠外・収入配分増などのメリットがある協定です。正直当時20カ国と既に協定を結んでいたので、ようやく日本とも!と思ってました。
ただ、アニメの日中合作があまりヒットしないのと同じで、海外との共同映画も’どっちつかず?’な感じで一般視聴者へのウケはそこまで良くない状況で、”大成功!”と呼べる作品はほぼ無かったのでは…?と思える状況です。
そんな中、成功と言えそうな作品は2018年上映、最近も少しリバイバル上映した中国とアメリカの合作映画「巨齿鲨」(英語:The Meg)です。全世界興行収入が約5.3億ドル(ざっくり約570億円)、其中中国大陸が約10億円(ざっくり150億円)、北米が1.43億ドル(ざっくり150億円)なので、中国とアメリカ以外での地域の興行収入が約270億円というのは、かなり良い成績かなと思っています。
【注】レートは2020年8月のレートを参考にしています。
現地化及び国際化の融合モデルについては、「巨齿鲨」の中国側製作会社である华人文化のVPである应旭珺も今回のフォーラムでこのように話しています:
合作で一番重要なのはグローバル合作、配給、分配で有り、中国市場に偏ってはいけません。開発制作と配給の過程で中国要素とグローバル市場のすり合わせを大いに行う必要が有る。
华人文化集团副总裁兼华人影业总裁应旭珺
言っている事は当たり前に聞こえそうですが、一番難しいのはこの部分ですよね。前提条件として、合作協定には作品の「中国要素」が必要となります。これは劇場版では無いアニメの合作等にも通じる規定ですが、その「中国要素」は規定が非常に曖昧なので、定義はとても難しい。それでいて、中国市場に偏り過ぎてはグローバルは狙いにくいので、確かに何度も何度もすり合わせが必要なのは当然でしょう。
この現地化とグローバル化の並行が難しいく、どのように文化の違いという障害を克服し、全世界でのヒットに結びつけるのかという点に関しては、リモート参加のフォンランドの映画監督·プロデューサーのRenny Harlin氏が語るには:
ハリウッド映画は一般的にグローバル展開を重要視していますが、グローバルに通じる’シンボル·記号’を作り出せるか、そして共鳴性を引き出せる’情緒’こそが作品の可能性を左右する決定的な要因です。その中でも、感情、情緒は取り分け大事。
映画監督·プロデューサー、Renny Harlin
なんだかどんどん抽象的な議論になってきたような…ただ思うのは、このエモーショナルな感情をグローバル規模で引き出すには、それこそ題材や物語の背景は地に足がついた現地化されたモノでも、引き出させられる感情は、人類に通じる根本的な、本質的な心理で有る必要が有るということなのかもしれません。
中国では近年、より社会現象を取り上げた映画がヒットしていますが(「我不是药神」で薬の流通と価格について、「少年的你」で学校のいじめについて)これらは地に足がつき過ぎていて、グローバルでの共感は難しい部類なのではと思ってます。ですがディズニー映画のような「愛」や「夢」、「勇気」といった大きな枠組みで感情を深堀りすると、より感化されるセグメントが多くなるのはうなずけます。
また、今回のフォーラムでは中国でも人気な日本映画「ラブレター」の監督、岩井俊二監督は、コロナが流行する中、日本映画業界の再開を支援する為に、遠隔撮影やスマホ撮影などで「8日で死んだ怪獣の12日の物語」を制作し、ミニシアターで上映した事をお話ししました。
全体を通して思えた事は、抽象的な話が多い中、
■今回のコロナは全世界の映画業界にとっては大きなチャレンジであり、今後映画人はより「映画」に畏敬の念を持ち制作していく事。
■映画の工業化の道を進む為には、中国はまだまだ海外から学ぶ事が多いという事。
■文化の差を克服して、全世界の市場で勝ち上がる為にはグローバルで通じる「感情」を動かす事が大事で有る事。
■合作に関するフォーラムを北京映画祭でいちフォーラムとして開催する位には、中外合作の道はまだまだ推奨されているという見方が出来る事。
ぶっちゃけ、最後のポイントが私的に最重要シグナルだと思っています…(笑)
補足情報として:
7月下旬に中国の映画館が開館されてから、2019年のレベルにまで回復するのは正直まだまだ時間が必要でしょう。
それでも8月21日から上映された「八佰」などの映画は、一週間で既に興行収入14億元(約210億円)を超えるなど、頼もしいニュースも見られる様になりました。
日本からの輸入映画アニメ、実写共に上映日が決まるのを待っている作品も数作見受けられます。
新たな情報が有ったら、またブログかツイッターでシェアさせて頂きます。
ではまた〜
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