ずっと待ちわびていた中国ビッグIP、「 全職高手」(マスターオブスキル)のアニメ第二期が2020年9月25日にテンセント動画で独占配信される事が先日発表されました。本作は色々な意味で中国ネットアニメの先行者的な意味合いをもつIPでも有るので、テンセント系の中国アニメを知るのにとても良い事例だと思い、今日は少しお話ししたいと思います。
作品情報
作品名:「 全職高手」(マスターオブスキル)
原作連載:ネット文学プラットフォーム「起点中文網」にて2011年より連載され、2014年連載を終了。
作家:蝴蝶蓝
ジャンル:e-Sports
アニメ(第一期):2017年、全12話をテンセント動画、ビリビリで配信。制作会社は視美動画。
アニメ特別編:2018年全3話に特別編をテンセント動画、ビリビリで配信。制作会社はColored-Pencil。
アニメ映画「全职高手之巅峰荣耀」:2019年8月中国上映。制作会社はColored-Pencil。
実写ドラマ:2019年テンセント独占配信、全40話の実写ドラマ。
その他展開:漫画(ビリビリ漫画)、音声ドラマ、MMORPGのスマホゲームなども展開。
中国ネット文学小説とテンセント系の閲文集団
中国の80後、90後などの世代の多くの人にとっては”流行りの小説を読む事”が青少年時代日本でいう”毎週本屋に週刊少年ジャンプを買いに行く”と似たような感覚で、小説が学生時代の勉強以外の時間の”何かにハマる”感覚を持てた主流のコンテンツ形式だったと言っても良いでしょう。
それ故に、日本のアニメにとっては漫画雑誌で連載されている作品がアニメ化されやすいのと同等の意味で、中国ではネット文学小説を原作にした作品がアニメ化や実写映像化されやすいといった背景が有ります。
そしてここ数年日中アニメ業界で仕事をしてきた感想としては、中国では優秀な”原作小説”がかなり多いということです。ただ、漫画やアニメなどの業界のプロと呼べる人材がやはり日本と比べ少ない為、映像化となるとどうしても色々と経験不足な面が目立ちます。
そんな業界のあり方を徐々に変えたのが、中国ネット文学プラットフォームのトップを走っていた「起点中文網」を含む多くの文学プラットフォームを統合して設立されたテンセント系の閲文集団でしょう。
その歴史については以前ブログでも紹介しました:
【歴史背景篇】中国ネット文学市場と発展歴史の骨格を解説(上)
言うなれば、開発可能な大量の優秀なネット小説の原作を(閲文集団保有)、中国でコンテンツに一番力を入れている2020年度時価総額世界ランクTOP10入のテンセントグループが保有し、クロスメディア戦略をグループ内でカバー出来るマンモス級のコンテンツ生態圏が出来上がったのです。
そして元々原作段階から男女共に人気が高かった本作のアニメ化は、そんなテンセント系ネット文学作品の「汎娯楽戦略」の真の始まりとも言える作品でしょう(個人的見解)。
⇨2015年、閲文集団誕生。2011年からテンセントが唱えていた「汎娯楽戦略」が本格始動出来る多くの”原作元”を確保した形となります。
⇨2016年、「 全職高手」アニメ化発表。時は既にテンセント傘下に入ったRiot Gamesの全世界で爆発的人気を誇るe-Sportsゲーム「League of Legends」が中国本土でも人気を上げている時代でした。
⇨2017年、「 全職高手」アニメ第一期がテンセントとビリビリで配信を開始。現在(2020.9.16)テンセント動画で16.6億回、ビリビリで1.6億回の再生回数。
2Dのセルアニメとして制作された「 全職高手」は当時まだまだ少なかったe-Sportsを題材にしたIPのアニメとして大ヒット。それまでe-Sportsをあまり知らなかった層も、アニメをキッカケにe-Sportsに興味を持った人は多かったでしょう。
アイドル級の人気を誇るキャラクター
スポーツをメジャーな競技として成り立たせるその重要要素は、競技自体の公平性は当たり前ですが、その他にも選手と素人を分ける「プロ」のカリスマ性といった要素が不可欠でしょう。それ故に、プロ選手にファンがつき、選手を応援する事で”選手のファン、そのチームのファン”として競技自体が一つのエンターテイメント性を持ったスポーツ競技として成り立ちます。
そしてその要素を秘めていたのが、この作品です。
高い技術とカリスマ性を持った凄腕選手がプロの世界から追い出され、ネットカフェでバイトを始める所から物語は始まります。そこから持ち前の技術で再度チームを組みテッペンを目指すストーリーでは、王道な青少年スポーツ漫画のあらゆる要素が詰まっています。違いといえば、主人公が既にプロだった所であり、素人からスキルを上げていく成長モノでは無い所でしょうか。
ただ、それ故にキャラクターは「プロ選手」の凄さを存分に際立たせており、多くの女性ファンを魅了しています。例えば主人公の誕生日は微博のトレンドのトップを飾り、その人気っぷりから、テンセントもタワーの広告枠を買い誕生日を祝い盛り上げています。
また、企業広告のイメージキャラクターとしての商業価値も高く、これまでファストフード、シャンプー、お菓子類、牛乳、クレジットカード、ジュース飲料など多くの販促コラボを行っています。
アニメのキャラクターとして商品化販促権利の活用というより、その運営はアイドル事務所の運営方法のそれと似ているような…中国で男性バーチャルアイドル市場に火がついたのも、「 全職高手」の影響は大きかったでしょう。
その他、アニメ本編には大量にマクドナルドのプレイスメントがされており、現在はこのような方法は他の中国アニメでもかなりスタンダードな手法となっております。これら動画プラットフォームは自作のバラエティーやドラマでも協賛という形でブランドと組んでいたりするので、その方法がアニメでも流用され、現在では特に有力なIPで有れば有るほど、事前に協賛が集まり安くプレイスメントがされています。(テンセントでは配信済みの動画にもプレイスメントが出来るようなサービスもあり、それにはびっくりです…)
その他、日本のアニメ委員会・原作側では到底認められ無い宣伝方法なども多く、深くは語りませんがかなり中国独自なやり方も多いです…ほぼ一社判断(サイト側)でGOサインが出せるという事も影響しているのでしょう。
因みに、この記事を書いてる時に初めて知りましたが、Youtubeのテンセント動画のオフィシャルアカウントで本作の第一期が英語字幕で見られるようです。
興味の有る方は是非〜
9月25日でテンセント動画で独占配信される第二期は特別版の3話と劇場版を制作したColored-Pencilによる制作のようですね。画風も第一期の視美動画の制作とはガラリと変わっています。(因みに第一期の視美動画は「魔道祖师」の制作会社です。)
色々とIP展開では賛否両論の激しい本作では有りますが、今後の展開は更に続くと思われるので、中国アニメに興味が有る方には是非おすすめしたい作品でした〜多分、見たらe-Sportsの競技にも興味が持てる…かも?(本作はe-Sportsの雰囲気をざっくり知る事には面白いですが、厳密に実際の競技だと解釈する事は出来ないかもです…)
ではまた〜
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